2017年12月06日

「認知症カフェ」~町田市「Dカフェ」~住み慣れた地域で自分らしく生きるために

Dカフェ

厚生労働省の調査によると日本の65歳以上の高齢者人口は1950年以降一貫して増加を続け、2017年9月の推計では3514万人に達しています。それに比例するかたちで、認知症を患う人の数も2012年時点の462万人から2025年には約700万人に増加するといわれています。今や誰が当事者になっても不思議ではない認知症を、どのように捉えていけば良いのでしょうか。今回は認知症に向き合い、明るく生きていくためのサポートの場となっている「認知症カフェ」について取材し、その様子をレポートしました。

「認知症カフェ」ってどういうもの?

認知症カフェは福祉大国オランダでスタートし、その後イギリスなどのヨーロッパを中心に広まった、「アルツハイマーカフェ」が起源といわれています。日本では、高齢者の絶対数と認知症の人の増加を背景に、2012年の厚生労働省による認知症施策「オレンジプラン」(認知症施策推進5か年計画)で初めて認知症カフェについての言及がなされました。その後2015年に策定された「新オレンジプラン」(認知症施策推進総合戦略)により、その普及を推進する方針が示されたため、現在は全国各地で認知症カフェ設置の動きが進んでいます。

認知症を患う当事者だけでなく、介護をしている家族や専門職、地域の人々が集まり、様々な情報交換やそれぞれの心のケアを行いながら認知症に向き合い、知識を深める場とされている認知症カフェ。市町村などの自治体や地域包括支援センター、医療機関などの公的機関、NPO法人や社会福祉法人、事業者などの民間団体などが運営にあたっていますが、なかには認知症の当事者が主催するカフェもあるそうです。また、運営するスタッフは民生委員や家族会のメンバー、福祉の仕事に携わる職種の人、地域の行政職員、教職員、医療職など多岐に渡る職種の人で構成されています。

認知症になると、外出先での失敗経験による不安や周囲への遠慮などから「外に出かける自信がない」、家族からも「どこに連れていけば良いのかわからない」といった意見が聞かれるといいます。そういった人たちにとっての外出のきっかけや交流の場となるべく、各自治体では認知症カフェの運営に力を入れ始めているのです。

スターバックス コーヒーの店舗で開催、町田市「Dカフェ」

東京都町田市で2015年12月より開催されている「Dカフェ」は、「地域社会への貢献」「認知症の人が仲間を作れる場所」という理念のもと、企画段階から認知症の当事者が参加し生まれた認知症カフェです。

この「Dカフェ」の特徴のひとつは、スターバックス コーヒーの店舗で開催されていることです。スターバックス コーヒーでは、「コミュニティコネクション」という店舗のある地域への日頃の感謝の気持ちを込め、店舗が行う地域活動があります。もともとスターバックス コーヒー町田金森店では近隣の介護施設との交流がありました。そこに町田市の認知症カフェ推進の動きが強まり2016年より定期的に開催場所を提供する形で、「Dカフェ」の協力をしているとのことです。

スターバックスコーヒー

ストアマネージャーの林健二さんは、「同じことを会議室などの特定の人しか出入りしない場所で行うのと、色々な人が利用するオープンな場所で行うのとでは、参加者だけでなく、地域に対する影響といった面からみても全く違うと思っています。参加者もワクワク楽しくなるような空間で楽しい時間を過ごせる、地域に向けても認知症に対する理解を発信できる、両方にとってプラスになるような場にしていけたら」と考えているといいます。パートナー(店舗スタッフ)の中には自主的に認知症サポーター講座を受講して、認知症に対する理解を深めようとする人も多いそうで、受講したパートナーの胸元にはその証である「オレンジリング」が付けられています。「認知症の人やその家族が安心して『Dカフェ』の時間を楽しめるように」。開催場所である町田市内のスターバックスコーヒー各店舗の温かい受け入れ体制が、「Dカフェ」を支える大切な柱となっているのです。

 「気負いなく楽しめる時間」を過ごせる場所

2017年10月、スターバックス コーヒーの店舗前には午前10時からの「Dカフェ」の始まりを待ちながら、「今日は(みんな来ていて)オールスターズの日だね」などと立ち話をする参加者の人たちの姿がありました。「Dカフェ」の参加費はご自身の飲み物代のみ。それぞれ好きなドリンクをオーダーしてから2階の席へ向かいます。毎回、「Dカフェ」開催時は店舗側で約10席程度を確保しているそうです。

お互いの近況報告から始まり、「旅のことばカード」というコミュニケーションツールを使ってお喋りを思う存分楽しめる「Dカフェ」の時間。参加者の女性は「Dカフェ」の存在を次のように語っています。

「ここは何を喋っても『聞こう』と耳を傾けてくれる。他(の会など)はそれなりに気遣いをするので、気負いなく話せて安心できるこの場所がとても大切です」

認知症であっても、そうでなくても、よほどの社交性を持つ人以外は初めて会った人と話すこと、ましてやそれを楽しむことは難しいものです。特に相手が認知症となると、「こんなことを言ってもいいのかな」と不安に感じてコミュニケーションが難しい場合もあるといいますが、「Dカフェ」では初参加であっても堅苦しさがなく、皆と一緒にお喋りを楽しむことができます。それはなぜなのでしょうか。その手がかりとなるのが、「旅のことばカード」の存在です。「旅のことばカード」とは、認知症であってもいきいきと暮らしている人たちの「前向きで実践的な工夫」をカードにしてまとめたコミュニケーションツールです。

旅のことばカード

見守りサポーター、自分をあらわす部屋、ウォームデザイン、…

「旅のことばカード」にはさまざまな言葉とイラストが描かれています。「Dカフェ」では、カードをテーブルの上に並べ、その中から1枚選んで「なぜこのカードを選んだのか」1人ずつ自分の思いを話すところから始まります。参加者皆で思い思いの話をしながら、会の終わりには皆が共有できるものへと話をまとめていきます。あくまで参加者の人たちにお喋りを楽しんでもらえるように、そのひとつのツールとして「旅のことばカード」は活用されていますが、ここではカードのある「ことば」から参加者の「本音のことば」が引き出されて話が広がっていくこともあるのです。

「認知症と診断された当初は『なんでこんなことになってしまったんだ』と思っていた。でも(自分が)認知症であることは無視できない。今は認知症の自分をベースに、『新しい私を見つけていきたい、再出発したい』という気持ちになった」

「新しい出発」というカードを選んだ女性の言葉です。一人が話した言葉によって、他の参加者からも「本音のことば」がでてきます。

「自分を病人だと思いたくないんだよね。脳も人間の臓器の一部。誰でも何かしら(持病のようなものは)あるから、認知症だけ特別なわけじゃない」

一対一で質問攻めにしても、その人の本音を引き出すのは難しいと、進行役である認知症フレンドシップクラブの松本礼子さんは言います。「旅のことばカードの『ことば』をきっかけに、みんなで話したり、聞いたりしていると、その人の本音がポロッとこぼれ出すんです。みんなが本音で話しているから、自分も本音で話ができる。『Dカフェ』が終わった後には忘れてしまっているかもしれないけれど、今日のその時間に思ったことを大事にしてほしいと思っています。『今』を楽しむことが大切なんです」

気負うことなく話ができ、皆と楽しめる場所。受け入れてもらえるという安心感から時折こぼれ出す参加者の人たちの本音のことば。認知症当事者やその家族たちが自然と笑顔になれる居場所がそこにはありました。

認知症への理解を広めるために必要なことは?

町田市の「Dカフェ」の取り組みは、スターバックス コーヒーの店舗での開催という点や、毎回参加者が多く集まるという点からも注目を集めています。認知症カフェは全国の自治体で定期的に開催されていますが、思うように参加者が集まらないことが課題となっており、2017年11月に放送されたNHKの報道特集でも、認知症カフェの成功事例として「Dカフェ」が紹介されました。

認知症患者の数は増えているのに、なぜ参加者が増えないのか。それは認知症カフェの存在が知られていないことのほかに、「認知症への偏見」があるからではないかと言われています。ニュースなどで取り上げられる認知症関連の事件や事故から、一般的な認知症に対するイメージは未だマイナス的です。そのため、認知症の当事者やその家族のなかには、「認知症であることを知られたくない、隠したい」と思う人も多いのが現実なのだといいます。

年を重ねていくなかで、誰がなってもおかしくない「認知症」。誰でもがなりうる病気であるからこそ、「認知症になったら大変」という負のイメージだけを 一人歩きさせるのでなく、正しい知識と理解を社会全体で持つことが必要とされています。

そのためには当事者自身が認知症であることを「隠す」のではなく、「オープンにする」ことが大切です。オープンにすることが、家族・友人・知人・地域・社会へと、点から面へサポートの輪を広げるきっかけとなるはずだからです。「Dカフェ」の運営に携わるスターバックス コーヒー町田金森店の林さんも今後の希望については、「認知症の人がカフェの運営側になるなど、より主体的に動ける取り組みを作って、社会との接点にしていけたら」と考えているといいます。

Dカフェ

「Dカフェ」には認知症の当事者のほかに、その家族・地域住民・大学生・介護施設関係者など毎回さまざまな人が参加しています。認知症の夫とともに参加していた女性も、他の認知症の人と交流することで、考え方が変わったといいます。

「以前は、(夫が)認知症になったことで人生が終わったくらい絶望的に思っていて、家から出られない時期もありました。でも『Dカフェ』に出会って皆さんとお話するうちに、誰でも生きていくなかで大変なことはあるし、認知症もそのなかの一つでしかない。全てが終わるわけじゃない。自分の気持ち次第で明るく生きられるんだと思えたんです。私にとって『Dカフェ』は、仲間がいると思える場所。本当に心強いです」

「仲間がいてくれるので心強い」。参加者からそんな声が出てくる「Dカフェ」のような「居場所」は、認知症の人やその家族が前向きに生きる原動力となっています。家の中に閉じこもるのではなく、積極的に人のなかに入っていくことで、人とのつながりや理解が生まれ、さらに地域や企業と一緒に、自分一人では考えられなかった取り組みを始めることもできます。

認知症になっても自分らしく生きられる。そして一緒に笑いあえる仲間を作れる。そんな「居場所」が、必要としている多くの人たちのもとで築かれることが望まれています。

介護ぱど運営事務局