2017年12月27日

【言語聴覚士(ST)】「話す・聞く・食べる」ことのプロフェッショナルによるリハビリとは?

色鉛筆と吹き出し

理学療法士や作業療法士と並び、高齢者のリハビリにおいて重要な役割を担っているのが言語聴覚士です。

言語聴覚士は、名前のとおり「話す」「聞く」といった行為を扱う専門職ですが、高齢者の介護や医療においては、「食べる」ことについてのケアやサポートで活躍する場面も多く見られます。

「話す」「聞く」「食べる」ことに関する障害の例

言語聴覚士は、理学療法士や作業療法士とおなじく国家資格であり、言語聴覚士としてリハビリをおこなうには、国家試験に合格して、厚生労働大臣による免許を受ける必要があります。

また理学療法士や作業療法士は体全体の機能や動作についてのリハビリをおこないますが、言語聴覚士はおもにことばによるコミュニケーション食べることに関連する器官についてリハビリをおこなうのが大きな特徴となっています。

言語聴覚士がおこなうリハビリは、おもに下記のような障害に対応しています。

【失語症】
「話す」「聞いて理解する」「読んで理解する」「書く」といった行為が難しくなる状態。こうした失語の症状は、おもに脳卒中や頭部の外傷などが原因で起こりますが、高齢者の場合は認知症の進行によって同様の症状が現れる場合もあります。

【音声障害】
声がかすれて出にくかったり、声が出なくなったりする状態。音声障害の原因としては、喉頭がんやポリープなど声帯に関わる病気のほか、肺や気管支など呼吸器の疾患や機能低下もあげられます。

【構音障害】
呂律(ろれつ)がまわらないなど、唇や舌を使って言葉をはっきり発音できない状態。

【聴覚障害】
加齢による聴力の衰えなどにより、音や言葉が聞きとりにくい状態。

【摂食・嚥下障害】
食べ物を「上手く噛めない」「飲みこむのが難しい」という状態。たとえば食べたり飲んだりしたときによくむせる人は、この障害にあてはまる可能性があります。特に食べ物を飲み込む力が弱くなっている高齢者の場合、こうした「むせ」が原因となり、食べ物などが気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)や誤嚥による肺炎(誤嚥性肺炎)を起こしてしまうケースも多いため注意が必要です。

現代では高齢者の多くが聞くことや食べることになんらかの不具合を抱えているといわれていますが、上記のような症状が日常的に見られる場合には、「話す・聞く・食べる」といった能力を維持・回復するためにも、医療機関を受診し、言語聴覚士によるリハビリを受ける必要があるかもしれません。

言語聴覚士によるリハビリの具体的な内容

口の体操

言語聴覚士がおこなう言語聴覚療法では、患者や利用者の状態を検査・評価したうえで、個人やグループで下記のようなリハビリをおこなっていきます。

【失語症】…「話す」「聞く」「読む」「書く」という4つの機能の改善を目標とした訓練をおこないます。また、イラストを指差すことで意思伝達ができるコミュニケーションボードのように、ことばの代わりとなる用具を使用する練習がおこなわれる場合もあります。

具体例:絵や文字が書かれたカードを見て、書かれていることを理解する訓練や、名前など自分に取って身近なことを書く練習など。

【音声障害・構音障害】…発声や発音の訓練を中心にリハビリをおこないます。音声障害や構音障害の人の場合は、失語症の人とは異なり言語機能が保たれているため、必要に応じて、50音表を指差したり、文字を書いたりすることでコミュニケーションする練習がおこなわれる場合もあります。

具体例:唇・頬・舌などの口腔器官を動かす練習や呼吸器のトレーニングなど。

【摂食・嚥下障害】…食べ物を飲みこむ練習とともに、食物の形態の工夫・調整や、口腔機能の維持・改善のためのトレーニングなどをおこないます。

具体例:ゼリーなどの食べやすい食材による飲みこみの練習、食事の姿勢・一口あたりの量・タイミングの指導など。

聴覚障害のリハビリに従事する人は少ない?

上記は医療・介護の現場で言語聴覚士がおもにおこなっているリハビリの例ですが、日本言語聴覚士協会が2016年におこなった調査では、調査の対象となった言語聴覚士1万3099人のうち、1万人前後が「摂食・嚥下」「成人言語・認知」「発声・発語」といった障害を対象としたリハビリに携わっているのに対して、「聴覚障害」を対象としたリハビリをおこなっている言語聴覚士は1701人のみという現状も判明しています(複数回答可)。

その一方で国内においては、65歳以上の高齢者では3人に1人、75歳以上の後期高齢者では7割以上の人が、加齢を原因とする難聴(加齢性難聴)の症状を訴えているという統計があり、近年では難聴になると認知機能の低下が起こりやすいという研究報告もおこなわれています。高齢者介護の現場では聴覚障害のリハビリや、「聞くこと」に障害を持つ人の日常的なケアやサポートが求められていますが、こうした状況に言語聴覚士がどのように関わっていくかは今後の重要な課題といえそうです。

言語聴覚士によるリハビリを受けるには

指さしする女性

上記の日本言語聴覚士協会の資料によれば、言語聴覚士が所属する機関の約7割(69.7%)は病院などの医療施設であり、介護老人保健施設(老健)や老人ホームなどの介護施設に所属する言語聴覚士は全体の8%程度にとどまっています。また老人ホームや老健、デイサービス(通所介護)といった介護施設の多くが、口腔ケアや嚥下能力の維持・改善のためのトレーニングを実施していますが、こうしたケアを担当するのは言語聴覚士ではなく歯科衛生士介護職員というケースも多いようです。

これは言語聴覚士が在駐している介護施設がまだまだ少ないこととも関係していますが、いまのところ言語聴覚士のいる病院を受診することが、言語聴覚士によるリハビリを受けるもっとも一般的な方法といえそうです。ただし近年では、訪問リハビリテーションをおこなう訪問看護ステーションや医療機関に所属する言語聴覚士も増えていることから、外出や通院が難しい人の場合は、介護保険による訪問リハビリを利用する方法もあります。

また言語聴覚士は医療・介護関連の施設だけでなく、発達障害や聴覚障害を持つ児童のための学校や障害者センターなど、福祉や教育の分野でも幅広くリハビリをおこなっています。

言語聴覚士が不足している現状も

言語聴覚士の国家試験がスタートしたのは1999年のことであり、近年では毎年1500名程度が国家試験に合格して言語聴覚士の免許を取得しているとのこと。また国家試験の開始時には4003名だった有資格者数も、2016年には2万7274人にまで増えています(日本言語聴覚士協会調べ)。しかし国家資格になったのが比較的最近ということもあり、現在はさまざまな分野において、言語聴覚士が不足していることが指摘されています。

たとえば四病院団体協議会(民間病院を中心とした病院団体の協議会)が、全国の病院を対象として2016年に実施した調査では、対象となった施設のうち約8割(82.1%)が「基準上は言語聴覚士の数は充足している」と答えている一方で、4割近く(37.5%)の施設が「患者の状況に応じて必要な言語聴覚士の人員」が「足りていない」と回答していることも判明しています。この調査結果からは、多くの病院が制度の上で必要とされる最低限の人数の言語聴覚士を確保してはいるものの、それだけでは患者のリハビリに対応できていない実情も伺えます。

特に高齢者においては「話す」「聞く」といったコミュニケーションや「食べること」が大きな楽しみという人も多く、これらは生きがいにつながる行為でもあります。言語聴覚士によるリハビリは、こうした楽しみをサポートする重要なものであり、高齢化が進展する社会においては、高齢者のQOL(生活の質)を高める意味でも、介護や医療の現場で切実に求められているケアだといえるでしょう。

▼参考資料
・言語聴覚士の仕事 一般社団法人 日本言語聴覚士協会
https://www.jaslht.or.jp/work.html

・言語聴覚療法が対象とする主な障害 公益財団法人 老年病研究所
http://www.ronenbyo.or.jp/hospital/tiikiriha/senmon/st.pdf

・50歳過ぎたら要注意!加齢性難聴とは? NHK健康チャンネル
http://www.nhk.or.jp/kenko/atc_311.html

・耳が遠くなると認知症になりやすい? 日経Gooday
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO17369830W7A600C1000000?channel=DF140920160925

・四病院団体協議会による理学療法士・作業療法士・言語聴覚士需給調査 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000120212_6.pdf

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