2018年01月17日

【介護施設における医療的ケアとは?】介護職員による医療行為はNG

医療

老人ホームやデイサービスなどの介護施設においては、介護職員によるさまざまな医療や健康に関するケアが日々おこなわれています。

しかし、そのうち医療行為にあたるサービスについては医師や看護師といった医療の専門職しかおこなうことができず、介護職員がこうした行為をおこなうことは原則として法律で禁止されています。ここでは介護職員による医療的なケアの可否について解説していきます。

「医療行為」と「医療的ケア」との違いは

医療行為(医行為)とは、医師の医学的判断や技術を伴っておこなわれる行為のことであり、またそうでなければ人体に危害をおよぼす、あるいは危害をおよぼすおそれのある行為を指します。この医療行為には、診断や薬の処方、手術といった医師が自らおこなわなければならない絶対的医行為と、注射や点滴など医師の指示に従って医師以外の医療従事者(看護師など)がおこなう相対的医行為がありますが、これらはいずれも資格を持った医師や医療従事者にしか許されていない行為です。

その一方で医療的ケアは、日常生活に必要とされる医療的な生活援助行為を指します。この医療的ケアという言葉には、障害を持つ児童などに対して家族が在宅で日常的におこなっている「たんの吸引」や、鼻などから管を通して栄養を流しこむ「経管栄養」といった医療的な介助行為を、法律で定められた医療行為と区別するために使用されるようになった背景があります。

▼参考資料
・医療的ケア児 第2回 「医療的ケア」とは何か NHK ハートネットTV
https://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/3400/247363.html

介護職員がおこなえる医療的ケア

介護士と高齢者

それでは介護職員がおこなうことができる医療的ケアにはどのようなものがあるのでしょうか?

厚生労働省では2007年に、介護現場において医療行為の範囲が拡大解釈され、介護職員が必要なケアをおこなえなくなるのを避けることなどを目的として、医療行為について定めた法律の介護現場における解釈に関する通知を各都道府県知事宛てに発出しています。同通知では、まず下記の行為が医療行為にあたらない(=介護職員がおこなうことが可能な)ものとしてあげられています。

・体温計による体温の測定
・自動血圧器による血圧の測定
・パルスオキシメーターによる動脈血酸素飽和度(SpO2)の測定
・軽い切り傷、すり傷、やけどなどの処置(専門的な判断を必要としないもの)

介護施設における体温や血圧の測定は、利用者の日々の健康状態を把握するために欠かせないものであり、介護職員が看護師の指示のもとでこうした行為にあたることは珍しくありません。また肺や心臓に疾患のある高齢者においては、酸素が血液中にどれぐらい溶け込んでいるかを測定するパルスオキシメーターの使用も、日々の健康管理の一環として欠かせないケースが多く見られます。

体温や血圧の測定やパルスオキシメーターの装着については、介護職員がおこなうことが可能ですが、測定の結果を元に服薬などの指示をすることは医療行為にあたるため禁じられています。また、軽い切り傷やすり傷、やけどなどに絆創膏を貼ったりガーゼを交換したりといった処置は、専門的な判断を必要としない範囲であれば医療行為にはあたらないため、介護職員でもおこなうことができます。

「塗り薬を塗る」「湿布を貼る」はOK?

ほかにも利用者の状態によっては、介護職員が医薬品の使用に関する介助をおこなうことが可能となるケースもあります。ただし、その際には利用者が下記の3つの条件を満たしていることが必要となります。

1.患者が入院・入所して治療する必要がなく容態が安定していること
2.副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師または看護職員による連続的な容態の経過観察を必要とする状態ではないこと
3.内用薬については誤嚥の可能性、坐薬については肛門からの出血の可能性など、当該医薬品の使用法そのものについての専門的な配慮を必要としないこと

利用者がこれらの条件を満たしていることを医師や看護師が確認しており、本人または家族に医師や看護師の免許を持たない人(=介護職員)でも医薬品の使用介助ができることを伝えている場合には、本人または家族からの事前の依頼に基づき、介護職員は下記のようなケアをおこなうことができるとされています。

・皮膚への軟膏の塗布
・湿布の貼付
・一包化された内用薬の内服(舌下錠の使用も含む)
・肛門からの坐薬挿入の介助
・鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助

爪切り・歯みがき・耳そうじは原則的にOK

手を取り合う介護士と高齢者

なお、同通知においては原則として法的な規制の対象にならないものとして以下の行為もあげられています。

・爪切り
通常の爪切りや、爪やすりを使った爪へのケアは医療行為にはあたりません。しかし、高齢者に多く見られる巻き爪や、爪の角が指の肉に刺さる陥入爪(かんにゅうそう)などによって爪の周囲に化膿や炎症などの異常が見られたり、爪水虫(爪白癬)などで爪そのものに異常があったりする場合には、医学的判断が必要となるため、介護職員が自己判断で爪切りをおこなうことはできません。

・歯磨きなどの口腔ケア
歯ブラシや綿棒などを用いて、歯や舌などの汚れを取り除くことは医療行為にはあたりません。ただし、利用者に重度の歯周病などがある場合には医学的判断が必要となります。

・耳垢の除去
通常の耳そうじ自体は医療行為にはあたらないため、介護職員がおこなうことが可能です。ただし高齢者の場合は耳垢塞栓(じこうそくせん・耳垢が耳の穴をふさいでいる状態)を起こしているケースもあり、こうした症状が疑われる場合は、医師や看護師による判断が必要となります。

・ストーマ装具にたまった排泄物を捨てる
ストーマとは手術によって作られた人工の排泄口であり、そこに装着されたパウチなどの中には便や尿などの排泄物が溜められていきます。肌に接触しているパウチの交換は医療行為にあたるため、介護職員には認められていませんが、パウチ内の排泄物を捨てるなど、交換の介助をおこなうことはできます。

・自己導尿を補助するためのカテーテルの準備や体位の保持
自己導尿は、患者や利用者が自分自身で尿道から膀胱内に細い管(カテーテル)を挿入して尿を体外に排泄する方法ですが、介護職員がこうしたカテーテルの挿入をおこなうことはできません。介護職員がおこなうことができるのは、カテーテルなどの器具の準備や、体位の保持などの介助に限られています。

・市販の浣腸器を用いた浣腸
挿入部の長さが5から6センチメートル程度以内、成人用の場合でグリセリン濃度50%、40グラム程度以下の容量のものであれば、介護職員でも市販のディスポーサブル(使い捨て)浣腸器を用いた浣腸をおこなうことができるとされています。

たんの吸引と経管栄養(胃ろうなど)について

さらに、2012年4月に実施された「介護福祉士法及び社会福祉士法」の一部改正により、研修を受けた介護職員が一定の条件下であれば「たんの吸引」などの医療的ケアをおこなうことが可能となりました。

同改正に伴い認められた医療的ケアは下記のとおりです。

・たんの吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部※)
・経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養)

ただし介護職員がこれらの処置をおこなうには、定められた研修を受けていること医療や看護との連携により安全が確保されていることが必須条件となります。

※気管カニューレ…気管切開手術後に気管に挿入されたチューブ

介護職員がおこなうことのできない医療行為は

介護職員がおこなうことのできない医療行為の具体例としては下記のようなものがあげられます。

・褥瘡(じょくそう※)がある部分への軟膏の塗布
軽い切り傷やすり傷、やけどなどへの絆創膏の貼付や、傷口にあてたガーゼの交換は介護職員でもおこなうことができますが、褥瘡への軟膏の塗布や消毒、褥瘡部位への湿布の貼付などは医療行為にあたるため、介護職員がおこなうことはできません。ただし褥瘡にあてたガーゼの交換など医学的判断を必要としない処置については介護職員がおこなってもよいとされています。

※褥瘡…寝たきりなどによって体重で圧迫された部位の血流が悪くなり、皮膚などの組織が部分的に壊死する症状。「床ずれ」とも呼ばれる。

・インスリン注射
介護施設の利用者には糖尿病を患っている人も多く、なかにはインスリンの皮下注射を自分でおこなう人もいます。ただし介護職員がこうした注射を利用者の代わりにおこなうことはできません。

・摘便(てきべん)
摘便は自力で排便ができない人に対して、肛門から指を入れて便を摘出する医療行為です。摘便は一歩間違えば腸壁を傷つけてしまうおそれのある行為であり、介護職員はおこなってはならないとされています。

介護施設内で医療行為についての共通認識を持つことが重要

医師

介護職員がおこなうことができる医療的ケアは限られた範囲のものであり、利用者から要請があった場合でも介護職員が医療行為をおこなうことは法律で禁じられています。そのため看護師が常駐している施設においては、湿布の貼付や軟膏の塗布といった専門的な判断を必要としないケアについても、介護職員がおこなうのを一切禁じている例も見られます。

その一方で、一部の施設では介護職員が摘便をおこなうことが黙認されているなど、人手不足や忙しさから介護職員が医療行為をおこなってしまうケースが少なくないのも実情です。しかし、こうした行為は法律に違反するものであり、行為が発覚した場合には施設や職員が処罰の対象となる場合もあります。

実際に2015年には大阪・羽曳野市の有料老人ホームが、法に基づく登録をおこなわずに介護職員に経管栄養の処置をさせたり、医療行為にあたるインスリン注射をおこなわせたりしていたことにより書類送検の処分を受けているほか、2016年には埼玉・熊谷市の特別養護老人ホームにおいて、介護職員が医療行為にあたる摘便をおこなっていたことが発覚し、摘便を指示した看護師が懲戒処分となったことも報じられました。

介護の現場においては、介護職員が利用者に医療行為を「やってほしい」と頼まれる場面も多く見られますが、介護職員がこうした行為を自己判断でおこなうことは、医療事故につながる可能性もあり、極めて危険なことといえます。介護現場における医療事故やトラブルを防ぐためには、施設が具体的なガイドラインを作成し、医療的ケアや医療行為の可否についての周知を職員の間で徹底することが重要となります。その一方で、緊急時には介護職員がすみやかに行動できるよう、介護施設内で職員に対して応急処置の研修をしっかりとおこなっておくことも、利用者の安全を確保するためには大切なことといえるでしょう。

▼参考資料
・医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000g3ig-att/2r9852000000iiut.pdf

・医師法第17条及び保健師助産師看護師法31条の解釈について(通知)に対して寄せられたご意見について 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/public/bosyuu/iken/p0729-1.html

・無登録で医療行為「認識甘かった」 老人ホーム運営会社が謝罪 産経WEST
http://www.sankei.com/west/news/151003/wst1510030069-n1.html

・熊谷の特養ホームで手続きなく身体拘束 不適切な医療行為も 産経ニュース
http://www.sankei.com/region/news/160816/rgn1608160036-n1.html

介護ぱど運営事務局