2018年01月31日

【胃ろうでも老人ホームに入居できる?】介護施設における受け入れ体制について

女医

介護施設に入居する高齢者のなかには、認知症や嚥下機能(食べ物を飲み込む力)の低下などにより、口から食べ物を摂取するのが難しく、胃ろうを造設している人も多く見られます。

近年では、老人ホームにおいても胃ろうの人の受け入れをおこなっている施設が増えてきましたが、これは、2012年4月に実施された「介護福祉士法及び社会福祉士法」の改正により、介護職員でも一定の条件を満たしていれば「たんの吸引」や「胃ろう」といった特定の医療的ケアをおこなうことが可能となったことによるものです。

ここでは介護施設における胃ろうの人の受け入れ状況や、特定の医療的ケアを必要とする人が老人ホームを探す際の注意点などについて解説していきます。

胃ろうとは?

高齢者のなかには、加齢により食べ物を噛む力や飲みこむ力が低下したことなどが原因で、通常の食事をおこなうことが難しいという人が多く見られます。こうした機能の低下により食事中に「むせ」を頻繁におこすような場合には、食べ物などが誤って気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)や、それに伴う肺炎の危険があるため、口から栄養を摂ることが制限されるケースもあります。さらに重度の認知症や脳血管障害などを持つ人においては、食事を摂るという作業自体がおこなえない人も少なくありません。

こうした人に対しておこなわれる医療的な処置のひとつが、チューブを通じて胃に直接栄養を送りこむ「胃ろう」です。胃ろうとは胃に人工的につくられた食べ物の入り口のことであり、この入り口は胃に穴を開けて専用のチューブ(カテーテル)を差しこむことで形成されています。

また胃ろうはPEG(ペグ Percutaneous Endoscopic Gastrostomy:経皮内視鏡的胃ろう造設術の略)とも呼ばれますが、胃ろうやPEGという言葉が使われる際には、胃につくられた栄養の注入口のことだけでなく、胃ろうを通じて栄養剤や流動食を注入する行為(経管栄養)を指す場合も多いようです。

胃ろうのメリットとは?

胃ろうにはおもに下記のようなメリットがあるといわれています。

・手術が比較的容易であり、入院期間も短くて済む
・患者の体への負担が少ない
・誤嚥性肺炎のリスクが軽減される

これらは介護される側にとってのメリットですが、介護する側のメリットとしては食事介助にかかる手間や時間が軽減されるという点もあげられます。その一方で、本人の意思やQOL(生活の質)を尊重する観点からは延命治療としての側面が強い胃ろうを疑問視する声もあり、家族などの近親者が胃ろうの可否について迷うケースが多いのも実情です。ただし、胃ろうを造設したからといって口から物が食べられなくなるわけではなく、胃ろうの造設後に回復して口からの栄養摂取がおこなえるようになった場合には、胃ろうを除去することも可能です。

ちなみに、2012年に医療経済研究機構がおこなった調査では、胃ろうを造設した人の約2割(20.8%)が、その後なんらかの形で口から栄養を摂取できるようになったことも報告されています。なお、胃ろうによる経管栄養が可能なのは消化管(腸)が十分に機能している人に限られており、そうでない人の場合は血管を通して栄養を注入する静脈血管栄養などの処置がおこなわれることになります。

介護職員が胃ろうに関する医療的ケアをおこなうには

介護士と高齢者

かつては、胃ろうによる経管栄養(チューブを通じて胃に直接栄養を送りこむ)をおこなえるのは、医師や看護師など医療の有資格者に限られていましたが、冒頭にも述べた法律の一部改正により、現在では介護職員でも胃ろうなどの経管栄養やたんの吸引に関わる医療的ケアをおこなうことができるようになっています。ただし、介護職員がこうしたケアをおこなうには、下記の条件を満たしている必要があります。

1.ケアにあたる介護職員が一定の研修を受けていること

介護職員が経管栄養やたんの吸引などの医療的ケアをおこなうためには、自治体などが実施する定められた研修を受講して必要な知識や技能を修得し、都道府県から認定特定行為業務従事者認定証の交付を受けなければなりません。

2.医療や看護との連携により安全が確保されていること

介護職員による医療的ケアを実施する事業所は、医師や看護師といった医療関係者との連携や安全確保のための措置などについて定められた条件を満たした上で、都道府県に特定行為をおこなう事業者として登録をおこなわなければなりません。

この2つの条件を満たすことによって、介護職員は経管栄養・たんの吸引といった特定の医療的ケアをおこなうことが可能となります。また、こうした手続きをおこなわずに介護職員に上記の医療的ケアをおこなわせた事業者は法的な処罰の対象となる場合もあります。

介護施設による受け入れ状況は

NPO法人「特養ホームを良くする市民の会」が2011年10月から2012年7月にかけておこなった調査では、アンケートに回答した全国の特別養護老人ホーム(特養)465施設の約7割(71%)が「胃ろうをつけた人の受け入れに制限を設けている」と回答したことが報告されています。現在は改正法の施行から一定の時間が経過したこともあり、公的な老人ホームである特養でも胃ろうの人を受け入れる施設が増えてきていますが、医療機関との連携が難しかったり、医療的ケアをおこなえる人材が不足していたりという理由から、下記の文京区の例のように胃ろうについては対応できる施設が一部にとどまっているのも実情です(2017年12月現在)。

一方、民間の有料老人ホームに目を移すと、医療機関との連携などにより、上記のような特定の医療的ケアに対応している施設が着実に増えてきている状況もあります。そのため、経管栄養やたんの吸引が必要になったことが原因で特養に住み続けるのが難しくなった利用者が、医療体制の整った有料老人ホームに転居するといったケースもあるようです。

ほかにも、特養とおなじ介護保険による施設サービスである介護老人保健施設(老健)では、医師の常駐が義務づけられていることや看護師の配置が多いことなどから、入居者に胃ろうやインスリン注射といった医療行為をおこなうことが可能となっています。ただし、老健はリハビリによる在宅復帰を目指すための施設であることから、長期にわたる利用が難しいという面もあります。

さらに近年では、事業所に看護師が常駐し、介護や看護、医療的ケアなどのサービスを一体的に提供する看護小規模多機能型居宅介護(看多機=カンタキ※)も注目を集めていますが、その事業所数は全国で350(2017年4月)と、まだまだ一般化しているとはいえないのも実情です。

※看護小規模多機能型居宅介護…退院直後の在宅生活へのスムーズな移行をサポートすることなどを目的として、2012年度の介護報酬改定で創設されたサービス(当初の名称は複合型サービス)。在宅・施設への通い・、施設への宿泊を組み合わせつつ、同じ事業所が介護や看護、医療的ケアなどのサービスを一元的に提供する。

施設選びの際には優先順位を明確にすることも大事

調べる女性

胃ろうによる経管栄養など特定の医療的ケアが必要な高齢者については、必要とするケアの内容や施設の種類によっては、まだ対応しきれていない現状もあります。そのため、胃ろうの人が入居できる施設を探すときには、特養や老健といった公的な施設だけでなく、有料老人ホームなどの民間施設も視野に入れる必要があるのも実情です。

いずれにしても、特定の医療的ケアを必要とする人が入居施設を探すときには、「利用者がどのようなサービスを必要としているのか?」を明確にした上で、費用や地域などの条件と照らし合わせて施設を選ぶことが必要となります。たとえば、ふたたび口からの食事による栄養摂取を目指す人の場合なら、言語聴覚士のようなリハビリの専門職が在駐する老健や有料老人ホームのような、嚥下機能の訓練や口腔ケアに力を入れている施設が適しているといえます。

近年では、有料老人ホームで提供される介護や医療のサービスも多様化していますが、医療的ケアや医療行為の内容によっては、対応できる施設が限られてしまうこともあり、住み慣れた地域や家族の近くといった条件にこだわると、受け入れ可能な施設が見つからない場合もあります。そのため、胃ろうなど特定の医療的ケアを必要とする人においては、サービス・費用・地域のどの条件をもっとも重視するのか、優先順位をつけた上で介護施設を選ぶことも施設探しの重要なポイントといえるでしょう。

▼参考資料
・喀痰吸引等(たんの吸引等)の制度について 東京都福祉保健局
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kourei/hoken/tankyuuin.html#CONT

・胃ろう(PEG)とは? NPO法人 PDN(Patient Doctors Network)
http://www.peg.or.jp/eiyou/peg/about.html

・特養の7割、「胃瘻患者」入居数に上限 NPO法人調べ 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXNZO46077630T10C12A9CR8000/

・”胃ろう”受け入れ 特養の約7割が制限 NHK生活情報ブログ
https://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/500/131858.html

・介護も医療も自宅で受ける 「看多機」都市部で注目 日本経済新聞
https://style.nikkei.com/article/DGXKZO21916540V01C17A0NZBP01?channel=DF130120166089

・看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス)について 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091038.html

介護ぱど運営事務局