2018年02月21日

【介護施設での口腔ケア】認知症リスクにも関わる「お口の中の健康維持」とは

口を押える女性

老人ホームなどの介護施設において幅広く取り入れられている口腔ケア

口腔ケアとは歯磨きなど口の中を清潔に保つためのお手入れや、「噛む力」「飲み込む力」といった口腔機能を維持・向上するためのトレーニングを指す言葉です。近年では、健康な歯の維持や適切な入れ歯の使用が、高齢者の認知機能の維持にも深く関わっていることも報告されており、口腔ケアは高齢者のQOL(生活の質)を保つために欠かせないものとなりつつあります。

口腔ケアで肺炎の発症者が半減

厚生労働省の資料によれば、日本人の死因の第3位は肺炎であり、肺炎による死亡者の9割以上が70歳以上の高齢者といわれています(2017年人口動態統計より)。

高齢になり「噛む」「飲み込む」といった口腔機能が衰えると、食べ物などが誤って気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)を起こしやすくなります。しかし、高齢者においてはこの誤嚥から肺炎を発症するケースも多く、肺炎で入院した人の6割以上が誤嚥による肺炎だったという調査報告もあるぐらいです。これらのデータからは高齢者介護において誤嚥の予防が重要であることがわかりますが、日本歯科衛生士会の資料では、週1回の歯科医師と歯科衛生士による口腔ケアを実施している特別養護老人ホーム(特養)では、口腔ケアを実施していない特養に比べて、「37.8℃以上の発熱者」「肺炎の発症者」「肺炎による死亡者」の発生率が半分程度に抑えられていることも報告されています。

健康な歯の本数と認知機能の関係

入れ歯

また口中の健康が損なわれることにより、食べられる物が制限されてしまったり、発語のしにくさなどからコミュニケーションを取りづらくなってしまったりするケースもあります。「食べること」や「人と話すこと」は人間の生きがいにも深く関わる行為であるため、こうした口腔機能の低下は生きる意欲の低下につながってしまう可能性もあるのです。

生きる意欲が低下して心身の活動が不活発になると、認知症になるリスクが高まるといわれていますが、2016年に東北大学の研究チームがおこなった調査では、歯が少ない人ほど身体機能や認知機能が低下し、3年後に自立した日常生活が困難になるリスクが高いことも報告されています。

さらに日本歯科衛生士会の資料では、「歯がほとんどないにも関わらず義歯を使用していない人」は、「自分の歯が20本以上ある人」にくらべて認知症の発症リスクが1.85倍になるという調査結果が報告されていますが、その原因として食品を「噛む」機会が減ると脳への刺激が少なくなることや、食べられる食品が限られることによる栄養素の偏りなどが指摘されています。

介護施設における口腔ケアの内容は

次に口腔ケアの具体的な内容ですが、介護施設における口腔ケアは、おもに口の中を清潔にするためのケア口腔機能の訓練を中心としたケアの2種類から成り立っています。

口の中を清潔にするためのケアには、入居者(利用者)の口の中の健康状態を把握することや日々のうがいや歯磨き、入れ歯の着脱や手入れなどさまざまなものがあります。通常、口腔内の健康チェック(検診)は歯科医師や歯科衛生士、看護職員などによっておこなわれ、虫歯や歯周病、口内炎の有無、入れ歯の使用状況などが確認されます。また歯磨きについては歯科衛生士が指導にあたるほか、自分で歯磨きがおこなえない人については、介護職員や看護職員が口腔スポンジ(スポンジブラシ)や舌ブラシといった器具を用いて、口中や歯の清掃にあたる場合もあります。

一方、口腔機能の訓練は、唾液の分泌を促すマッサージや、「噛む力」「飲みこむ力」「(食べ物を)吐きだす力」などのトレーニングが中心となります。高齢者においては、噛む力の低下や薬の影響などで唾液の分泌が減っていることからドライマウス(口腔乾燥症)になり、「食事がとりにくい」「発声がしにくい」といった症状を訴える人も多く見られます。

そのため多くの介護施設では、「パ」「タ」「カ」「ラ」の4つの音を発音することで、食べることに必要な口のまわりの筋肉を鍛える「パタカラ体操」や、指先を使った唾液腺のセルフマッサージなどがおこなわれていますが、こうした集団での機能訓練については介護職員が担当するケースも多いようです。

リハビリの専門職と口腔ケアの資格について

デンタルケア

また、介護老人保健施設などリハビリの専門職が在駐している施設では、言語聴覚士(ST)が口腔ケアに携わる場合もあります。

言語聴覚士は国家資格であり、病院や介護施設などではおもに「話す」「聴く」「食べる」「読む」「書く」ことに関するリハビリを中心に、食べ物を飲み込む練習や口腔機能訓練の指導などもおこないます。さらに近年では、高齢者介護における口腔ケアの重要性が指摘されていることに伴い、民間でもさまざまな口腔ケアの講習や資格の認定制度が実施されています。

なかでも介護現場で注目を集めているのが、富山市の歯科衛生士事務所「ピュアとやま」がおこなっている口腔ケアマイスターの資格認定制度です。同事務所の代表が開発した口腔ケアの技法は、歯ブラシや舌専用ブラシなどの道具を使って週2回のペースで口の中の手入れをおこなう「初級」、口腔内のマッサージや口腔機能の回復のための筋力トレーニングをおこなう「中級」、手技による痰の排出や咽頭のケアを中心とした「上級」によって成り立っていますが、富山市内の特別養護老人ホームではこれらのケアを導入することで「入居者の誤嚥性肺炎ゼロ」を実現したといいます。

訪問歯科と居宅療養管理指導

一方、病気や障害などの事情で歯科への通院が困難な人に対しては、居宅まで歯科医師が訪問して虫歯の治療や入れ歯の作成、口腔ケアなどをおこなう訪問歯科のサービスがあります。

このうち訪問歯科による虫歯や歯周病、口内炎などの治療には医療保険が適用されますが、要介護認定を受けている高齢者であれば、介護保険の居宅療養管理指導を利用して、1割(一定以上の所得がある人は2割)の自己負担で歯科医師や歯科衛生士による口腔ケアや口腔リハビリテーションといったサービスを居宅で受けることができます。

居宅療養管理指導では、歯科医師による訪問を月2回まで、歯科衛生士による訪問を月4回まで利用することが可能ですが、これらのサービスを利用するには医師や歯科医師による判断や指示が必要となるため、まずはケアマネジャー(介護支援専門員)に「口腔ケアを受けたい」ことを伝えて相談してみましょう。

口腔ケアの内容は施設によって大きく異なる

お口の中の健康を保つためには、歯磨きなどの日ごろからのお手入れが大切ですが、高齢者の場合は入れ歯の状態や疾病の有無などによって口中の状態がひとりひとり大きく異なるため、定期的に専門家による検診やケアを受けることも必要となります。

そのため、介護施設でもなんらかの形で口腔ケアを実施している施設が増えてきていますが、その内容は提携している歯科医師や歯科衛生士による定期検診から、言語聴覚士による口腔リハビリテーション、介護職員による歯磨きまで多種多様なのが現状です。通常、介護施設においては介護職員や看護職員、言語聴覚士や歯科衛生士などのスタッフが連携して口腔ケアにあたりますが、歯磨きや定期検診のペースは施設によって異なるため、老人ホームを探す際には歯科医師との連携体制や歯科衛生士、言語聴覚士の在籍状況など、「入居者の口腔機能の維持にどれぐらい気を配っているか」を確認しておくことも大切といえるでしょう。

▼参考資料
・要介護高齢者の口腔ケア 厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-08-003.html

・高齢者の口腔と摂食嚥下の機能維持・向上のための取組に関する調査(P16に肺炎についての記述あり) 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/iken/after-service-vol25/dl/after-service-vol25_houkoku.pdf

・高齢者施設における口腔ケアの必要性 公益社団法人 日本歯科衛生士会
https://www.jdha.or.jp/pdf/koureisya_shisetsu.pdf

・歯が少ないほど3年後に自立した日常生活が困難になる 東北大学(日本老年学的評価研究)
https://www.jages.net/about_jages/puress/?action=cabinet_action_main_download&block_id=967&room_id=35&cabinet_id=20&file_id=3221&upload_id=3712

・お口の健康と認知症の関係 公益社団法人 日本歯科衛生士会
https://www.jdha.or.jp/pdf/hatookuchi_2017060101.pdf

・高齢者のお口の健康 一般財団法人 日本口腔保健協会
http://www.jfohp.or.jp/okuchikenko_navi/senior/

・誤嚥性肺炎の入院をゼロにした富山市の特養 口腔ケアの3技法とは 福祉新聞
http://www.fukushishimbun.co.jp/topics/11679

・訪問歯科Q&A 一般社団法人 日本訪問歯科協会
http://www.houmonshika.org/patient/qa/

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