2018年02月28日

【老人ホームが倒産したらどうなる?】入居一時金の返還や退去の有無について

ビジネスマン

近年、介護施設や介護事業所の倒産が増加し、社会問題となっています。

(株)東京商工リサーチの調べ(速報値)によると、2017年中に倒産した老人介護・福祉事業者は111件で、2000年に調査が開始されて以来の過去最多を更新したとのことです。ここでは、老人ホームを運営する事業者が倒産した場合の入居者への対応介護施設の倒産が増加している原因介護施設を選ぶ際の注意点などについて解説していきます。

介護施設の倒産が増加している原因は

介護事業者の倒産が増加している要因としては、おもに下記の3つが指摘されています。

・人手不足

2016年に独立行政法人 福祉医療機構がおこなった調査では、全国の特別養護老人ホーム(特養)の約半数(46.9%)で「職員が不足している」ことが報告されています。最近では一部の特養において、人手不足から施設に空きをつくらざるを得ない(稼働率を100%にするには人手が足りない)状況が生じていることも報じられましたが、その他の介護施設や介護事業所においても、人手不足は倒産や閉鎖の大きな原因として指摘されています。

介護施設が人手不足に陥る理由としては、労働環境の過酷さや賃金の低さから人材が定着しないことがあげられますが、職員の賃金を上げると人件費が施設の経営を圧迫してしまうため、賃金を上げるに上げられないという施設側の事情もあるようです。その一方で、必要な人材を確保できないと施設が運営できなくなってしまうため、求人広告などで相場よりも高額な時給を提示したり、「採用率100%」を掲げたりする施設も見られます。しかし、こうした施設についてはサービスの質や経営の確実さに疑問が感じられるのも事実です。

・異業種の参入と競争の激化

2000年に介護保険制度がスタートした際、それまで介護施設を運営してきた医療法人や社会福祉法人以外に、多くの民間企業が需要の増加を見込んで介護事業に参入しました。

そのため、高齢者向け施設や高齢者向け住宅の建設ラッシュが起こり、入居者や人材の奪い合いが生じた地域もあります。このように競争が激化するなかで、介護事業に関する知識やノウハウを持たずに異業種から新規参入した事業者が、事業計画の甘さや事前準備の不足などから倒産したというケースも多いようです。

ちなみに民間の大手調査会社である(株)帝国データバンクの調査では、2017年に倒産した老人福祉事業者のうち、7割以上(71.6%)が株式会社の運営によるものであり、社会福祉法人や一般社団法人の倒産が極めて少ないことも報告されています(社会福祉法人、一般社団法人はそれぞれ全体の1.1%)。これは、従来から介護事業に携わってきた社会福祉法人や医療法人の運営による施設の信頼度が高いことをあらわす数字ともいえます。

・介護報酬の引き下げ

上記の帝国データバンクの調査では、近年における介護事業者の倒産の増加に、2015年におこなわれた介護報酬の改定が大きく関わっていることも指摘されています。介護報酬は介護サービスを提供した事業者に支払われるサービスの利用料であり、その1割(所得が一定以上の人は2割)を利用者が負担、残りの金額が介護保険から支払われる仕組みになっています。

2015年4月におこなわれた改定では、総額で2.27%の介護報酬の引き下げが実施されましたが、こうした報酬の引き下げによる収益の減少が、おもに小規模事業者の経営を圧迫したともいわれています。

老人ホームが倒産したら入居者はどうなる?

引越しをする人々

それでは老人ホームを運営する事業者が上記のような理由で倒産した場合、入居者はどうなるのでしょうか?これについては大きく分けて2つのケースが考えられます。

ひとつ目は、倒産した事業者が事業譲渡をおこなった場合。

このケースでは、老人ホームの経営という事業を別の会社や法人が引き継ぐため、施設の建て替えなどがおこなわれない限り、入居者は同じ施設に住みつづけることができます。ただし運営者が変わることにより、施設の建物は同じでも、サービスや料金、職員の構成などが変わってしまう可能性はあります。

一方、事業譲渡がおこなわれず、倒産したホームが閉鎖されてしまった場合には、入居者は別の施設に移らなければなりません。こうした場合、ケアプランを作成した事業者には引継ぎ先を探す責任があるため、通常はそれまで居住していた施設の担当者やケアマネジャー(介護支援専門員)が受け入れ先となる施設を探すことになります。しかし立地やサービス内容、料金などさまざまな要素を検討して選んだホームとおなじ条件の受け入れ先を短期間で探すことは不可能に近く、施設の倒産に伴う転居については下記のようなさまざまな問題が生じたことも報告されています。

・見知らぬ遠方の土地にある施設を紹介された
・特別養護老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など、有料老人ホームとはサービス内容やシステムの異なる施設が受け入れ先になった
・夫婦一緒に入居していたのに、別々の施設に入居することになった
・引越しにかかる費用を入居者が負担することになった

このように施設の閉鎖は入居者やその家族にとって大きなダメージを与えるものであるため、老人ホームに入居する際には信頼性の高い施設を選ぶことが重要となります。

入居一時金は返ってくるの?

また、有料老人ホームの多くでは入居時に入居一時金を支払うことが定められています。

入居一時金は、いわば想定される施設への居住期間の家賃を前払いするもの。そのため住む期間が長くなればなるほど、入居一時金は償却されて目減りしていくことになりますが、もちろん施設から退去する場合には、償却されていない分の前払い金は入居者に返還されなければなりません。しかし老人ホームを運営する事業者が倒産した場合も、こうした一時金は返還されるのでしょうか?

ここでポイントとなるのが、施設における倒産時の保全措置の有無です。

保全措置とは、倒産などにより事業者が入居者に前払い金を返還できなくなった際に、銀行や保険会社、信託会社、公益社団法人 全国有料老人ホーム協会などが、500万円を上限に倒産した事業者にかわって未償却の一時金の支払いをおこなう保証制度です。この保全措置は2006年度におこなわれた老人福祉法の改正により、入居一時金を受領する有料老人ホームに対して義務付けられることになりました。

ただし、2006年3月以前に設立された老人ホームについては保全措置が「努力義務」となっているため、初期費用がかかることなどを理由に保全措置をおこなっていない施設が存在しているのも実情です。さらに2014年に全国有料老人ホーム協会が実施した調査では、保全措置が義務付けられているはずの老人ホーム(2006年4月1日以降に設立されており、前払い金を受領している)においても、約1割(9%)が保全措置をおこなっていなかったことが報告されています。なお銀行などの民間による保全制度の多くは、支払った前払い金の償却期間が過ぎた場合、事業者の倒産により退去する場合でも入居者に戻ってくるお金はゼロとなりますが、全国有料老人ホーム協会の保全制度(入居者生活保証制度)の場合は、入居している限り、倒産による退去時には損害賠償として1人あたり500万円を上限とした金額が支払われるよう定められています。

倒産しない施設を選ぶための注意点とは

指さしする女性

(株)東京商工リサーチの調査によると、2016年中に倒産した介護事業者は108件で、業種別では「訪問介護事業」が48件ともっとも多く、次に多かったのがデイサービスやショートステイなどの「通所・短期入所事業」(38件)であり、有料老人ホームの倒産は11件となっていました。このように介護施設全体で見ると、有料老人ホームが倒産している割合は低いといえますが、少数ながら有料老人ホームの倒産が増加している現状があるのも事実です。

そのため、終生利用することが想定される老人ホームに入居する際には、倒産の可能性が少ない施設を選ぶことも重要となります。見学時にあきらかに職員が不足していることが感じられる施設や、入居者があまりにも少ない施設は運営に問題がある可能性が高いため避けるべきですが、老人ホーム選びでもうひとつ注意したいのが施設の設置年数です。これについては、上記の東京商工リサーチが倒産した介護事業者の半数が設立から5年以内の新規事業者だったことを報告していますが、こうしたデータを見ると、よほどのメリットがない限り、設立からまもない施設への入居も避けるべきといえるかもしれません。ほかに介護施設の信頼度をはかる目安としては、在籍している職員の勤続年数があげられます。こうした職員の勤続年数については、通常は入居者に対して公開されている各施設の重要事項説明書に記載されています。

介護業界は人員の入れ替わりが激しいため、すべてベテランの介護職員という施設はなかなかありませんが、たとえば介護職員のほとんどが勤続1年未満というような施設は、職員の定着率が低いことが予測されるため、避けておいたほうが無難といえます。

なお介護保険制度においては、一定の条件を満たしている施設や、定められたサービスをおこなっている施設に対して介護報酬(介護サービスの利用料)が加算される制度がありますが、こうした加算の多い施設は、サービスが手厚く、経営の努力を怠っていない施設と見ることができます。加算の対象となるサービスの例としては、夜間に常勤の看護職員を配置する「夜間看護体制加算」や、終末期の入居者に対する「看取り介護加算」などがありますが、ほかにも個別の機能訓練や認知症への対応、口腔ケアなどのサービスを手厚くおこなっている施設は加算の対象となっている可能性が高いといえます。

上記のような注意点をチェックする意味でも、老人ホームを選ぶ際には、実際に施設に見学に行き、担当者にサービスの詳しい内容を確認したり、自分の目で施設の雰囲気を確かめたりすることが重要となります。また倒産時の保全措置の内容については、重要事項説明書に明記されていない場合もあるため、施設がどのような保全措置をおこなっているのかを施設側に詳しく確認しておくことも、安心して老人ホームでの生活をおくるためには大切といえるでしょう。

▼参考資料
・2017年(1-12月)「医療、福祉事業」の倒産状況(2017年12月29日現在) 株式会社 東京商工リサーチ
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20180105_01.html

・特養、半数近くが人手不足 うち1割で利用者制限 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG17HCZ_Z10C17A1CR0000/

・医療機関・老人福祉事業者の倒産動向調査 株式会社 帝国データバンク
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p180101.pdf

・老人・介護事業の倒産111件 2017年過去最多 福祉新聞
http://www.fukushishimbun.co.jp/topics/18117

・相次ぐ老人ホームの倒産~突然の退去通知、そのとき何が起きるか? 週刊現代
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45006

・有料老人ホームにおける前払金の実態に関する調査研究事業報告書(P32に前払金の保全実施状況) 公益社団法人 全国有料老人ホーム協会
http://www.yurokyo.or.jp/investigate/research_report.html

・2016年(1-12月)「老人福祉・介護事業」の倒産状況 株式会社 東京商工リサーチ
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20170111_01.html

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