2018年04月13日

無届けホームに対する「事業停止」を含む指導強化へ…法的に位置づけできない施設では防火対策も課題に

禁止する

2018年4月から有料老人ホームに関する新たな制度が施行され、事業者に対する自治体の指導・監督の権限が強化されることが報じられています。

従来の制度では、都道府県などの自治体が事業者に対しておこなえるのは業務改善命令までにとどまっていましたが、新制度には、再三の勧告にも関わらず悪質な事業を続ける事業者に対して、自治体が事業停止命令を出せる権限も盛り込まれています。また自治体による事業停止命令の対象は、都道府県に届け出をおこなっていない無届けの有料老人ホーム(無届けホーム)にもおよぶとのことです。

無届けホームとは?

有料老人ホームとは、高齢者を入居させて「食事」「(入浴・食事・排せつなどの)介護」「(洗濯・掃除などの)家事」「健康管理」のいずれか(複数も可)のサービスを提供する施設のことであり、設置にあたっては都道府県知事等への届け出が必要となります。

しかし有料老人ホームとして届け出をおこなうには、設備や職員の配置について定められた基準を満たしている必要があるため、届け出をおこなわないまま高齢者を入居させ、食事や介護などのサービスを提供している施設もあります。これがいわゆる「無届けホーム」です。2009年には群馬・渋川市の高齢者施設「静養ホームたまゆら」で10名が亡くなる火災事故が発生していますが、同ホームは「無届けホーム」であり、事故後には厚生労働省から都道府県などに対して、無届けの施設に届け出を促すよう求める通知が出されました。しかし2016年6月末の時点でも、全国には1207ヶ所の無届けホームがあることが確認されており、厚生労働省のデータから計算すると、これは5年前(2011年・259件)の4倍以上の数字になります。

低所得の高齢者が入居するのは「無届けホーム」だけではない

年金手帳と通帳

また近年では、無届けホームに該当しない高齢者入居施設での火災事故も社会問題となっています。2018年1月、札幌市にある生活困窮者のために自立支援住宅「そしあるハイム」で、65歳以上の高齢者9人を含む11人が亡くなる火災事故が発生しましたが、この施設は入居者の多くが高齢者だったことや、食事の提供がおこなわれていたことから「無届けホームではないか」との疑いが持たれていました。しかし、その後の市の調査において、入居者を高齢者に限定していないことなどから、同施設は「有料老人ホームではない」と判定されています。

また、それまでにも、2015年5月に、神奈川・川崎市の簡易宿泊所で11人が、2017年5月には福岡・北九州市の簡易宿泊所代わりに使用されていた木造アパートでも6人が亡くなる火災事故が発生しており、さらに2017年8月には、精神疾患を抱える人が多く入居する秋田・横手市の木造アパートが全焼し、58歳から78歳の入居者5人が亡くなるという事故も発生しています。

無届け施設の何が問題なのか?

上記の施設は、あくまで低所得者向けの宿泊所や共同住宅という名目の施設であり無届けホームには該当しませんが、いずれの施設においても入居者の多くは低所得の高齢者だったといいます。また、札幌市の「そしあるハイム」や、上記の秋田・横手市の共同住宅では、食事の提供などのサービスがおこなわれており、安価で提供されるこうしたサービスを「頼みの綱」としている入居者がいたことも報じられています。さらに、「一日あたり数百円」といった価格で宿泊できる低所得者向けの滞在施設については、身寄りがなく一般の賃貸住宅に入居できない高齢者の「受け皿」となっている側面もあります。

しかし、無届けホームやこうした無届けの施設については、行政の監督・指導が行き届かないため防火対策などが不十分なケースも多く、入居者が劣悪な環境に置かれたり、虐待を受けたりする可能性も危惧されます。2014年には東京・北区の高齢者向け住宅「シニアマンション」において、入居者がベッドの四方を柵で囲われたり、手や体をベルトで縛られたりといった不当な身体拘束を受けていたことが発覚して問題となりましたが、この施設は無届けホームであったことから、行政の指導対象から外れていたといいます。

また介護施設の防火対策については、2013年に起きた長崎市の認知症高齢者グループホームでの火災事故などをきっかけに、火災発生時に自力で避難することが困難な人が入居する介護施設においては、広さに関わらずスプリンクラーの設置が義務づけられるようになりました。しかし、たとえ多くの高齢者が入居していたとしても、届け出をおこなっていない施設においては十分な防火対策が取られていないケースも多く、行政がこうした施設の実態を把握できていないのも実情です。

病院やケアマネジャーが無届けホームを紹介するケースも

待合室

上記の虐待が問題となった東京・北区の「シニアマンション」では、同施設の運営者である医療法人が入居者を斡旋していたことが報じられていますが、2017年に一般社団法人 高齢者住宅財団がまとめた「未届け有料老人ホームの実態に関する調査研究事業 報告書」では、アンケートに回答した施設の約7割が無届けホームへの入居ルートとして「病院・診療所」や「ケアマネジャー(介護支援専門員)」による紹介をあげていたことも報告されています(「病院・診療所」70.7%、「ケアマネジャー」68.9% 複数回答可)。

上記の調査報告を見ると、医療機関やケアマネジャーが無届けホームを紹介するケースも多いという事実に驚かされますが、これは経済的な理由などから無届けホームを必要としている高齢者が多いという介護現場の実態もあらわしています。ちなみに所得が低い人が優先的に入居できる介護施設としては、公的な老人ホームである特別養護老人ホーム(特養)があげられますが、特養には「原則として要介護3以上」という入居条件や、空きが出ないためなかなか施設に入れない「入居待ち」の問題などがあり、介護や支援を必要とする高齢者が入居できないケースがあるのも実情です。

一方、法的に位置づけできない低所得者向けの滞在施設や無届けホームについては、入居者が劣悪な環境に置かれたり、虐待を受けたりする危険性が指摘されている一方で、特養などの公的な施設にも入れず、行き場のない高齢者にとってはこうした施設を頼るしかない現状もあります。札幌市の調査によれば、火災事故が起きた「そしあるハイム」のような生活困窮者のための住宅は市内に53施設あり、調査時で381人が入居していたとのこと。これらの施設はそのほとんどが民間の支援団体により運営されているとのことですが、こうした支援団体においては、国や行政による補助を受けていない(受けられない)ため予算に余裕がなく、スプリンクラーなどの大規模な設備を整える資金が調達できないというケースも多いようです。

公的な補助制度の幅広い適用を

2018年3月、政府はこれまで法的な位置づけのおこなわれていなかった低所得者向けの滞在施設について、一定の基準を設けたうえで届け出をおこなわせるなど、規制を強化する方針を表明しました。

これは、こうした施設において火災事故が相次いでいることや、生活困窮者を宿泊施設に入居させて生活保護費を搾取する貧困ビジネスの問題などを受けての措置であり、2020年4月に施行される予定の生活保護法等の改正案には、消火器設置や避難訓練といった防火対策を法令に明記したうえで、対策をおこなっていない施設に対して自治体が改善命令を出せるようにすることなども盛り込まれています。しかし規制が強化されても、限られた予算で運営をつづける施設の状況が変化するわけではなく、かといってこうした施設が運営をやめてしまうと、低所得の高齢者の行き場がなくなってしまうという問題もあります。

一方、高齢者の単身世帯など住宅の確保が困難な人が増加していることに対する政府の施策としては、2017年10月に施行された改正住宅セーフティネット法があります。これは、賃貸住宅などの空き部屋を高齢者や低所得者の入居を拒まない住宅として登録することで、国や地方自治体から住宅の改修費や入居者への家賃についての補助などが受けられる制度であり、東京都は同改正法の施行を受けて、高齢者や低所得者が入居しやすい住宅を、2025年度までに3万戸を目標に登録していく方針を示しています。しかし、国土交通省が管理する「セーフティネット住宅」への登録には、原則として1室あたりの床面積が25㎡以上という条件が求められることなどから、いまのところ低所得の高齢者向けの住宅の登録戸数が、全国で375戸程度(2018年3月現在)にとどまっている現状もあります。

上記の東京都の施策では、国と都、市区町村からのサポートを合わせることによって、高齢者や低所得者の入居1人につき家賃を最大で4万円補助することや、耐震化などの改修費を最大で6分の5まで補助することなども示されています。冒頭に述べた火災事故のような惨事を繰り返さないためには、このような国や行政による補助制度が、公的な支援を受けられない高齢者や、こうした高齢者の「受け皿」となっている施設にまで広く適用されるようになることが必要なのかもしれません。

▼参考資料
・悪質老人ホームに事業停止命令導入 厚労省、監督強化へ 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG12H82_W7A110C1CR0000/

・全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議 資料(【高齢者支援課】P173に自治体による事業停止命令についての記述)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000196031.html

・有料老人ホームの概要 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000038009_1.pdf

・基準満たさぬ高齢者施設なお 無届けは減少 群馬「たまゆら」火災、元理事長に有罪 朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASHDV0G6GHDTUEHF021.html

・各地で相次ぐ高齢者入居施設の火災 防火対策も問題に 朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASL210R6QL10UTIL061.html

・都、身体拘束の高齢者マンションに立ち入り調査 有料老人ホームと認定、届け出るよう指導 産経ニュース
http://www.sankei.com/affairs/news/150310/afr1503100054-n1.html

・未届け有料老人ホームの実態に関する調査研究事業 報告書 一般社団法人高齢者住宅財団
http://www.koujuuzai.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/05/h28_jigyo3.pdf

・「そしある」類似53施設 札幌市調査 11人死亡火災受け 北海道新聞
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/172695

・厚労省 低額宿泊所の基準設定へ 届け出で防火徹底 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180302/k00/00m/040/168000c

・「住宅弱者」も入居しやすく 都、3万戸登録へ 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27193660R20C18A2L83000/

・新たな住宅セーフティネット制度について 国土交通省
http://www.safetynet-jutaku.jp/guest/system.php

・貧困高齢者向け住宅 「安息の地」制度のすき間 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180302/k00/00m/040/133000c

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